Short stories-つもりん-

つもりんの海賊帽



このお話はRICA-CHANNELのRICAさんのオフ本「Buccaneer!〜海賊と学者」の番外編SSのさらに番外編をRICAさんに許可を得て私が勝手に書きました



「ちょっと待ったぁ」
今日も例のごとく本を抱えてお気に入りの場所に向かおうとしていた弘樹の腕を掴むものがあった。
もっともこの船において弘樹に触れてくる人間は非常に限られていて、それもこのように無遠慮に腕を掴むような人物は只一人だった。

「・・・んだよ」
いつも暖かく、時にはアツく弘樹に触れてくる野分の手とは違う。むしろひんやりとしたその手をぱし、と払いながら振り向く。
「ヒデーなぁ、上條サン」
払われた手を大げさに振りながら、そこに立っていたのは津森だった。

野分が慕う先輩であり、この船のナンバー2。
運航上ではトップと言っていい男だ。
日差しを遮るもののない海の上で立ち働く多くここの男たちは皆上半身裸の状態で、貴族である(この船上でその身分など無意味だが)弘樹でさえもきちんとした格好なんてしていられずにシャツの袖をまくり上げているような暑さ。
なのにこの男ときたら、着崩してはいるもののいつも重そうで立派なしつらえのジャケット(それがこの船での上位者の証であるのだが)を羽織り、汗ひとつ浮かべず涼しい顔で立っている。
(暑くねぇのか・・・?)
ナンバー3であるはずの野分が他の皆と同じような格好で同じように働いているのを見ると、このナンバー2と3の格差は結構大きいのだと感じる。
それは津森が働いていないということではなく、果たすべき責任の箇所が違うということなのだが。

そんなことを思いながら側に立つこの男のことを眺めていると、片眉を上げて、ク、と喉の奥で笑われる。
この表情が人を馬鹿にしているように見えて、初めはいちいち癪に障ったのだが。
弘樹は周りからチラチラと投げられる視線に居心地の悪さを感じながら自分を引き止めた理由を促す。
この船の男たちから見て弘樹はナンバー3の野分のもの(本人曰くは“特別な人”)だから当然はなから手出しは出来ないのだが、のみならず津森にも気に入られているとなると、これはもう絶対的に不可侵であることを意味する。
それを面白くないと思う輩も当然のことながらいる。
それでも最近その剣の腕前や交渉ごとといった場面で弘樹本人も一目置かれ出してはいたのだが、船の仲間というには異質であることには変わりない。

「またあそこに行くつもりっスか? だったらこれ被って行って下サイ」
津森は自分の被っていた帽子を取ると、そのままつばの立派なそれを弘樹の頭に乗せた。
「あ・・・」
そういえば昨日、ここに登るのなら帽子を被れ、と野分に言われたことを思い出す。
「サンキュ」
素直に礼を言うと、珍しく柔らかく微笑まれ、乗せただけの帽子をきちんと直される。
「水持ってますね?」
子供にするような対応にむっとして睨み上げるが、全く効果は得られない。
バカらしくなって、
「水も持ってるし、気をつけて登るし、帽子もちゃんと被っとくし、暗くなる前に・・・」
普段何度も言われていることを自ら口にすると津森は今度こそ吹き出し、ぽん、と帽子の上から弘樹の頭をひと撫でするとひらりと手を振って彼自身の仕事に戻っていった。

この場にいる全員が憧れ、尊敬し、いつかは自分も、と望むその地位の象徴でもある立派な帽子を被った弘樹。
それがまた一波乱呼ぶのだが、それはまた別のお話。


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