Short stories-つもりん-

二年参りー大晦日ー

昨年のお話をふまえてお読み頂けたら幸いです。

その日、扉を開けるのに弘樹は非常に慎重になった。
なぜなら去年の例があったから。
去年は、結果としては行って良かったのだが、それはあくまで結果であって今年もそうなるとは限らないし、何より積極的にそうしたい訳ではないのだ。

ドアスコープを覗く。
そこにはクリスマスの夜以来会っていない恋人のコートの一部と思われる衣服が見えたので、そっと施錠を解いて迎え入れる為ドアを開けた。

しかし、もっと良く考えるべきだったのだ。
ちょっと考えれば分かるはずだったのに。

そもそも、家主である恋人の野分が帰ってきたのであればチャイムなど鳴らす必要は無く、自分の鍵で開けて入ってくると言うこと。
そもそも、帰れることになったのであれば、こうして家に着くまでに電話の1本、メールの1通でも寄越すはずであること。
そのどれもを飛ばしたとしても、ドアスコープから服しか見えないのはおかしいと言うこと。

反芻してみたところで、後の祭りとはこのことだ。
弘樹が文字通り苦虫を噛み潰したような顔でいると
「もうすでに定期便っスねー」
そんな不機嫌な顔などものともせずに、恋人を運んで来た男から明るい声がかかる。


今日は大晦日。
奇跡的に(というか、大変不本意ながら、この男の計らいにより)クリスマス当日の夜を過ごして以来、例によって野分はずっと病院に詰めっぱなしだった。
10日帰って来ないことも珍しくはないし、こうして一人の年越しだって慣れっこだ。
去年は無理矢理押し掛けてきた、この野分の先輩である津森に押し切られる格好で図らずもともに出かける羽目になったのだ。
それも一緒に病院まで来たら当直だった野分と変わってやるという甘言があったからこそだ。
結果として、このちゃらちゃらしているだけのように見える男の医師としての想いに触れることが出来て、まぁ良かった、と、思う。
少なくとも野分が懐いている人物を『チャラチャラした』という印象だけで終わらせなくて済んだし。
医師としては野分を預けて安心だということも分かったし。

その去年の例があるからこそ、もうすぐ年も変わろうかという時間に鳴らされたチャイムに慎重になったのだが。

「普段よりクタクタになるのが早くねーか」
野分が限界でフラフラで帰ってくるには、早い気がする。
「まぁインフルエンザがねぇ・・・皆さん年の瀬に慌ただしいっスよ」
それだけ忙しかったと言うことか。
いい証拠に、ベッドに寝かされた野分は、近づいて耳をそばだてないと息をしているのかも心配なほどで、弘樹の呼びかけに、ぴくりとも反応を返さない。
そんな状態の恋人を見兼ねて、自称頼りになる先輩は車で送ってきてくれたという訳だから、感謝こそすれ愛想悪くするなどはもってのほかであるはずなのだが
(それはコイツ自身のせいだ・・・っ)
さっさとお引き取り願おうとしているのに、そんな弘樹の様子になど気にもとめないで、勝手に家の中を歩き回る。
「ぅお、なんかすっげ本格的なおせちじゃないですかー」
ダイニングテーブルに載せた重箱を見て感嘆に似た声をあげるのに、つい舌打ちしてしまった。

二人だし、そんなに食えないからいらないと言うのに、毎年母親が用意して持ってくるのだ。
正月も満足に実家に顔を見せない息子への当てつけの意味もあるのかも知れないが。
「馬鹿っ、勝手にあけるな!」
「まさか上條サンの手作りじゃないっスよねー?」
つまみ食いしそうな手を払う。
「ウルセーよ」
「いいなぁーおふくろサンですか」
にや、と口の端をあげて笑うのはいつもと一緒で。
相変わらず人を食ったような顔をして気に入らないのだけど、
「いいですね」
再度ポツリと漏らした横顔はなんだか、ほんの少し寂しそうに感じてどうも心の据わりが悪い。
(いやいや、気のせい、気のせいだっ)
ブンと頭を振ってか脳裏から追いやると、もういつもの顔に戻っていたので気のせいだと思い込むことにした。
「じゃースミマセン、ありがとうございました・・・っ」
いよいよ本格的に追い返しにかかると
「冷たいなぁー」
はは、と笑いながらようやく玄関に向かうのをホッとして見送る。
「では、これからカワイー後輩の分まで働くべく病院に戻るワケなんですが」
靴を履きながら振り向き様にそう言うと
「病院まで、付き合って下さいよ」
ぐいと弘樹の腕を取って、まんまと連れ出したのだった。


<続く>


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