Short stories-つもりん-

リボンのかけ方

しまった。
結局何の準備もしないままこの日を迎えてしまった・・・
やっぱりあの時に準備しておけば良かったと、2週間前のことを振り返る。


『リボンのかけ方』


帰宅時間がすれ違い続けていたヒロさんと、偶然にも帰り道に出会ったので、一緒に夕ご飯の買い物にスーパーに寄った。
ニコニコと幸せな気持ちでカートを押していると、ヒロさんの目が催事コーナーのワゴンに向けられていた。
バレンタインデーのお返しの品が売られていて、俺も沢山頂戴したけど、ヒロさんも沢山持って帰って来てたなと思って声を掛ける。
「ホワイトデーですか?ヒロさんどうされます?」
ヒロさんはふむ、とそのほっそりとした指を顎にやって考える風で
「学生には返さんって言ってるから良い。あと大学職員から貰った分は一応教授と相談かな。
掃除のオバチャンには何か買おうと思ってる。世話んなってるし」
ヒロさんお掃除の方だけにして下さい!あとご実家のお母様だけでいいじゃないですか。
心の声が漏れ出そうになったが、ヒロさんに先を越される。
「オマエは?どーすんの?」
「ハイ、俺も患者さんにはお返しできませんし、看護士さん達には・・・皆さんで食べていただける菓子折りでも買ったほうが良いでしょうか。
頂いた時にかわいい恋人もいますし、お返しも出来ませんとお伝えはしているのですが」
「な・・・っ、オマエもらった人皆にそんなコト言ってんのか?!」
「エエ、まぁ、ハイ。本当のことですし」
大事な大事な恋人がいるということは、院内では知れ渡っているし、研修医の身分でアレだけの量に対するお返しが、金銭的にツライということも周知の事実で。
お返しをしなかったからといっても、特に問題はなさそうなんだけど、
なんていうか『潤滑な人間関係』の為には必要なのかな、とも思っていて。
そんなこと考えていたらヒロさんはさっさと先を歩いていっていた。
後はこの照れたような拗ねたようなヒロさんを宥めて、夜一緒に寝てもらうために俺の全思考を動員したので、
このホワイトデーのお返し問題はこれっきりすっかり忘れてしまっていたのだ。

****

「ジャーン、ナースの皆さん集合ー!」
俺が思い悩んでいたら、背後から先輩の明るい声が聞こえた。
振り返ると両手に大荷物を持っている。
「ハイハーイ、いつもお世話になってる白衣の天使チャンに俺と野分からお返しでっす」
「!!」
俺が驚くと先輩は片目を瞑ってみせた。
「じゃぁコレがひとみチャンでー、こっちゆかりチャンね。それから・・・」
その場にいるナースに包みを手渡していく。
「私、津森先生には差し上げていませんが」
「ゆーこチャンてば言うねぇー。まぁこれはホワイトデーにかこつけた普段のお礼とでも思っておいてくれたらいーよ。
で、ともよサンは?」
「師長は奥です」
わーい、やったぁと喜ぶナース達にぺこりと頭を下げて、俺も先輩の後を追う。

「あの、先輩有難うございます・・・」
「いーっていーって。まぁこの貸しは働いて返してもらうし。あ、でも」
もちろん働いて報いるつもりでいると、先輩が立ち止まり、看護師長へのお返しを提げた反対の手でごそごそポケットを探ると、キレイな包みを俺に差し出す。
明らかにナースへのお返しとは系統が違うモノだ。
「コレ、上條サンに。そんでオマエはもう上がっていいから。明日の昼までに来い」
「え、でも俺今日は・・・」
フルの勤務のはずで、しかも今はまだ午前中で。
言い募ろうとしたけど先輩はヒラヒラと手を振って奥の部屋へ行ってしまった。
急にぽっかりできた休日。
しかも土曜。
ヒロさんは休みで家にいる。
先輩からヒロさんへの、この託が、本当はイヤなんだけれど。

先日、以前のケガの処置のお礼の品を手渡したのが”たまたま”バレンタインデーだったせいで、先輩は『上條サンからのバレンタインだ』と俺をイジって喜んでいたのだけど、本当にお返しまで用意するなんて。
しかもなんだかこんな特別っぽいモノを。
それもこんな状況で俺に託けるだなんて、やっぱり先輩はチョット意地悪だ。
一筋縄では行かない人だ。
けれどその後姿に頭を下げて、有り難く申し出を受けさせていただくことにする。

大急ぎで家に帰ると、ヒロさんが驚いて出迎えてくれた。
「オマエ、どうしたの」
帰ってくると思っていなかったようで、リビングは本の海が出来かけていた。
これから埋まるつもりだったようだ。
「ハイ、なんだか休みになりました」
へー、と無感動っぽい声を出すけれど、赤くなってそっぽを向くさまが『嬉しい』と俺に伝えてくれる。
その様子が可愛くて、ヒロさんを腕の中に抱いて口付けようと顔を近づけた。
触れる寸前にヒロさんの目が伏せられる。
この一瞬が好きだ。
キスを待っているヒロさんの顔。
本当はもっとじっくり見たいのだけれど、いつもガマンできなくてスグに口付けてしまう。

「あ」
でも今日は図らずも唇が触れる寸前でポケットの中にしまいこんだ先輩からの贈り物の存在を思い出したんだ。
今思い出してよかった。
そうでないと、きっとこのままヒロさんを放してあげられなくなりそうだったし、そうなるとポケットの中のプレゼントの存在を忘れてしまう可能性が大きかったから。
キスが降ってくると思っていたヒロさんは、一瞬不服そうな顔をして、それがまた可愛くて俺の心臓はきゅんとなったのだけれど、イヤなことは先に済ますに限る。
「コレ、津森先輩からヒロさんにです」
包みを取り出してヒロさんの手に乗せる。
ヒロさんは片眉を跳ね上げて怪訝そうな顔をしながら包みの中を見た。
その小さい包みからパラリと零れたものはピンク色のキレイなリボン。
他に何が入っていたのかは見えなかった。
添えられていたメッセージを読んで、ヒロさんの顔がぼん!と赤くなる。
俺の手を振り切って自室に入り、何か引き出しにしまう音がする。
なんて書いてあったのか、とても気になるけれど、ヒロさんは言ってくれそうにない。

部屋から出てきたヒロさんが、真っ赤になりながら
「いいか、お世辞でも付き合いでも、絶対絶対俺が礼を言っていたとか、喜んでいたとか言うな!言ったら絶交だ!ココを出てく!!」
びし、と指差しながら言うけど、怒っているのとは少し違う反応だ。
「なんかイヤなことでも書かれていましたか?俺抗議しましょうか?」
先輩のことだから、またヒロさんをからかう内容だったのかもしれない。
「いや、いい。有り難く受け取る。・・・けど絶対絶対言うな!この件については口をつぐめ!!いいな!」

****

(アイツ・・・!)
散々野分に好きにされ、糸が切れるように眠りに落ちた翌朝。
野分が目覚める前に目を覚ました俺は、昨日の包みを大学のカバンにしまいなおす。
(コレは大学でシュレッダーにかけてやる!!)
昨日の津森からのプレゼントにイメージと違う達筆な文字で添えられたメッセージ。

色々考えましたが、とりあえず目の前のソイツを俺からのプレゼントとします。
申し訳ないですが、ラッピングはご自身でドーゾ。

(絶対喜んでたとか言わせねぇ!・・・・ウレシイけど・・・)

そしてこのメモをシュレッダーにかける前に教授に見つかる、という罠。

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