Short stories-スクディノスク-

お題ー10代の二人+ウェディングドレスー



こんなところに隠れたところで、あの家庭教師相手に逃げおおせるものではない。
スクアーロは思ったが、当のディーノは、ディーノだけはココに逃げ込んで一安心とばかりにほっとため息をついた。
広大な(今となってはただ広いだけで、お世辞にも手入れが行き届いているとは言えず各所に傷みが隠せないでいる)キャバッローネの屋敷。
ディーノがスクアーロを伴って帰ってきたからと言って家庭教師のシゴキが休みになるはずもない。
せっかくスクが来たんだから、と家庭教師から逃げ回った挙句に駆け込んだのがここだ。

やたらと部屋数の多い屋敷の一番奥で、一番日当たりの良い一室。
今はこの部屋で暮らすものがいないのか、生活感はないが同時に客用の部屋でもなさそうである。
その部屋のクローゼットに二人して逃げ込んでいるというわけだ。
クローゼット、と言ってもスクアーロの知るそれとは大きく違って、むしろ衣裳部屋と言ったほうがふさわしいと思えたそこは、女性モノのドレスが吊られ、靴に帽子にカバンの箱といったものが並んでいた。
そして今はそこに姿を映す者もいないのだろう、うっすらと曇った鏡。
なるほど、ココは彼が小さい頃に亡くなったというディーノの母の部屋であると確信を得た。
やや埃っぽくはあるが、それはけして嫌なものではなく、そこに残る優しさや柔らかさや暖かさ、といったものを感じてどうにもくすぐったい気持ちがした。


「うわ!こんなん出てきたー!見て見てスクー」
部屋の中をごそごそと漁っていたディーノが何を引っ張り出してきたかと思い視線を遣ると、その手にはやわらかい麻色で、ふんだんにドレープの付いたドレス。
一般的に純白とされるものとは違っていたが、すぐにわかった。
ウェディングドレスだ。
ピンと何か思いついたらしいディーノがへらりと笑ってにじり寄ってくる。
「なぁ、スク着てみてくれよ!」
ほら、ろくなことを言い出さない。
「・・・あのなぁ、そーいうモンはテメェみたいになだなぁ・・・あ、甘ったれた顔のほうが似合うぜぇ」
ついうっかりテメェみたいなカワイイ顔の、と言いかけてしまってうろたえたスクアーロが不覚にも赤くなってしまった顔を隠すようにそっぽを向いて答える。
「えーっ、おれー?!」
どう考えても、100人が100人ともディーノのほうが似合うというだろう。
ディーノがドレスを体に当て、薄く曇った鏡に姿を映した。
ぼんやりとしか映っていないはずであるのに、その表情が一瞬とても寂しそうに歪んだのをスクアーロは見逃さなかった。
「駄目だよ。やっぱりスクが着てくれよー」
くるりと振り向いたディーノの顔はいつもどおり能天気な笑顔であったが。
「俺が着るとさ・・・」
それ以上言葉が続くことはなかったが、スクアーロの脳裏にいつかディーノの部屋で見た写真立ての中の暖かい笑顔が浮かんだ。
似ているのだ、彼の母親に。
鏡に映る自分と、古い写真で見る母親の姿が。

下手を打ったなぁと内心舌打ちしつつも、テメェが、スクが、とドレスを押し付けあっていると、
ズガン
と空砲の(スクアーロにはそれが空砲であると判断できたが)物騒な音と共に扉が開いた。
「そのへんにしときやがれ。ガキどもが」
見た目には自分のほうがガキじゃねぇかと言いたくなる、かわいらしい赤ん坊の姿をした世にも恐ろしいディーノの家庭教師がそこにいた。
「ディーノ、俺から逃げようなんて100億年早いぞ。ミジンコから進化をやり直して来い。そんなに一緒にいたけりゃ、特別に今日はオマエにも稽古をつけてやる」
スクアーロを見てにやりと笑いかけられる。
「う”ぉ、まじかぁ?!」
この家庭教師の敏腕ぶりはその世界では有名であったから、スクアーロはその提案に嬉々として瞳を輝かせた。
しぶしぶ腰を浮かせるディーノと、喜び勇んで立ち上がるスクアーロ。その対極な様子にフンと鼻を鳴らした家庭教師は
「オイお前ら。そのドレス、きちんと片付けておけよ」
先ほどは一刻の猶予も与えないような素振りであったのに、それだけは言い含めるように念を押してスタスタと部屋を出て行った。
ドレスに視線を落とし、再びあげた時にディーノと目が合った。

「「なぁ」」
同時に声をかけて、同時に言葉を止める。
「なんだぁ?」
「スクが、先に言ってよ」
そして二人ともがしばし逡巡し、
「別に何もねぇよ」
「だったら俺も何もない」
「テメェは言えよ」
「あっ、ずりぃ。やだよ」
またそこで押し問答を続けていると、今度は庭から再び銃声がした
「やっべ、リボーン怒ってるぞ」
「いいから走れぇ」
つまづいて転びそうになるディーノに手を貸しながらバタバタと廊下を駆ける。

(一体俺は何を言おうというのだ)

頭の中を巡る言葉は二人同様で。

剣帝になったら
立派なボスになれたら
コレを来て俺のトコに来いよだなんて
もう
冗談でも
言える俺たちじゃ
ないというのに


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