Short stories-スクアーロ×ディーノ-

左手のお話



決意は固い
迷いもない
後悔はしない
それなのに、躊躇うのは未練か。


柔らかな陽光を反射して煌めく金髪を撫でる。その感触を楽しむように指に絡ませ、それからわしゃわしゃとかき混ぜてみる。
「もー、何すんだよ、スクアーロ」
ぷぅ、と頬を膨らませてみせる様が、まだ幼さを残す。
気にせずに続けると、猫の子のように気持ち良さそうに目を細めた。
そのままその滑らかな頬に指を滑らせ、まぁるくなぞるとうっとりと瞳を伏せる。
キスする時の、合図だから。
閉じた瞼、その長い睫毛にもそっと触れると、綻ぶように薄く唇が開く。
それから首の後ろに手をやって引き寄せると唇を重ねた。
ちゅ、と可愛らしい音を立てて下唇を吸う。しばらくじゃれるように啄むことを続けていると、焦れたように赤くて甘ったるい舌がちらちらと覗くのを、今度は深く絡ませる。
「んぅ・・・っ」
ふわふわと柔らかいコイツの特に柔らかい部分を自由に蹂躙する。
綺麗に揃った歯列をなぞり、上顎を舐め上げるとじゅん、と口内に唾液が溢れた。

舌を絡めてまるで蜜のようなその甘い唾液を啜り上げ飲み下す。
まだ華奢な首筋にかかるやわらかい金髪に指を絡めて梳くと
「・・・んっ」
くすぐったそうに首をすくめる仕草さえ、甘く心の奥を疼かせた。

夢中になってしまう。
そのまま首筋をたどり、シャツのボタンに手をかけたところでディーノの体がピクリと跳ね、
それで唐突に思い出した。
今日の本当の目的を。


甘い欲に溺れそうになっていたのを、肩を掴んで引き離す。
唐突に離された唇は、それでも銀の糸を伝わせて俺たちを繋いでいる。
ディーノの瞳は急に離されたことで驚きに見開かれたが、未だとろりと潤んでいた。
薄く水分の膜を張って艶めく、ぼんやりと焦点の合わない瞳が、俺を俺だけを映している。
再びじくじくと湧き上がってくる欲を無理やり押し込めて、濡れて光る唇を指先でぬぐってやると、かぁ、と顔を赤く染めた。
今更何を照れることがと半ばあきれつつも、いつまでもそのように慣れない素振りに相変わらず愛おしさが募る自分にもあきれる。

「・・・ディーノ。目ぇ閉じろぉ」
湧き上がる欲も、これからしようとする事への緊張も押さえつけて、震えないように慎重に声を出したせいで少し掠れてしまう。
それが、愛し合っているときの声に似て聞こえたのか、再びうっとりと瞼を下ろした。
また口付けを落とされると信じて綻ぶ唇。
色づいた頬を包み込むように手を添えると、ほ、と息を吐いたのが分かる。
安心して俺に預けてくるこいつに、俺がこれからしようとしている事と言ったらなんだ。
へなちょこだと言いながらも、本当はシンの強いやつだという事は知っている。
けれど、トラウマにならないだろうか。
いや、なるだろうな。
夢に見て、寝られなかったりするだろう。
これは俺自身の覚悟の為だけど。
それでもオマエと共にじゃなくアイツについて行くというのに、それなのに
この手が俺のものじゃなくなる、その最後の瞬間までオマエに触れていたいという
そんな酷いエゴのために、オマエを酷く怖い目にあわせようとしている。
傷つけるだろうな。
許してくれるだろうか。

どくりどくりと脈打つ心臓の音が、音漏れしてディーノに聞こえていないか、指先が震えてはいないか心配になる。
迷うな。
少しの迷いが太刀筋を狂わせ、そしたらディーノに返り血を浴びせることになる。
俺の血に濡れるディーノの姿を想像してゾクリとしたものが駆け抜け、熱を持つ。
しかしソレを振り切り、へなちょこと言われながらも敏いコイツに悟られないように慎重に息を吐き、
気配を消して右手に持った剣を振り上げる。

頭上で柄を握る手に再度力を込め、集中力を高めた時。

「スクアーロ」

不意に名前を呼ばれギクリとする。辛うじて剣を取り落とさずに済んで、背中に隠す。
「目開けていいか?」
さっきまでとろけきっていたやつの声とは思えない、やけにキッパリと、落ち着いた声でディーノが言い、
駄目だと俺が返す前にゆるりと瞼を持ち上げる。
欲情に潤んでいた瞳が静けさをたたえてヒタリと俺を見据えた。
俺が何も返事できずにいると、頬を包むようにしていた俺の手に、自分の手を添える。

「・・・まだ暖かくて・・・どくどくしてるな」

すり、と俺の手に愛おしそうに顔を寄せ、手のひらに口付けた。
一体どういうつもりなのか、ただされるがままの俺を再度正面から見て
「ちゃんと見届けたい。スクの覚悟。・・・すげー怖いけど」
そう言って、また愛おしそうに頬を摺り寄せ
「オマエはアイツのとこに行っちゃうから」
これは俺にくれよな、と呟き、今度は指先に口付けた。
その瞳に溜まる涙は今にも雫のカタチで頬を転がり落ちそうなのを必死で堪えているようだった。

それを見てこみ上げるものを自覚して、それを隠すように顔を近づけると、
ちゅ、と目元に唇を落とし、舌先で目の際ギリギリを舐め、溜まっている涙をすくい取る。

「・・・っあ」
眼球を舐められる感覚にぞくぞくと背を振るわせたディーノが真っ赤になって
「ばっ、バカ!スク!エロイことすんな!」

いつもの調子でぷんすか怒るのを、いつもの調子でククッと笑って、
お互い笑いあって、

そして

今度こそ

剣を振り上げた。

<終わり>
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