私立!妄想学園

自習休講編


きっかけ編の続きです。


ちら、と横に座る津森に視線を遣る。
自分から「乗り越そう」と誘ったくせに(厳密には違うかもしれないが)弘樹のことなど眼中にないかのように
ヘッドフォンを耳にあて何かの音楽を聞きながら窓を流れる景色を眺めている。
トントン、とひざの上でリズムを刻む指を見るに、アップテンポなロックなどではないようだ。
はぁ、とため息をつき、諦めたように文庫本を開いた。
電車の揺れに合わせて時たま触れる津森の肩を、僅かに意識して、
(一体どこまで行くつもりなんだろう・・・)
ふと浮かんだ考えに苦笑した。
どこまでも何も、嫌なら次の駅で引き返せばよかったのだ。

都心部を抜けた電車は、一駅の間隔が長くなる。
引き返すのも大変だから。ここまで来ちゃったし
どうせ遅刻は一緒だから。今更だし。
引き返さずにいる理由をあれこれと思い浮かべてみるものの、結局のところ自分もあのままの気分では学校に行きたくなかったのかもしれないということに気づく。
それでも今までは電車を乗りこして学校をサボるなどと思いもよらなかっただけで、無理に引き止められたわけでもないのにこうして一緒に電車に揺られて何駅も過ぎているというのは
やはり、そいういうことなのだろうと。

いつも乗っている路線も、いつもの駅を通り過ぎただけで随分と新鮮な気がする。
会社員や学生の姿はほとんどなくなり、まるで昼下がりのような子供連れの主婦や老夫婦などのなかで、自分たちはひどく異質に思えた。
あきらかに登校時間を過ぎ、制服姿の自分たちは補導されるのじゃないかと元来の生真面目な性格から心配になってきて再度隣の津森の様子を伺う。
弘樹の視線に気づいたのか
「ナニ?」
ヘッドフォンを外さずに問うてくるので
「・・・ドコまで行くのかと思っただけだ」
ぽそりと呟いた声は小さくて聞き取れなかったのか、ヘッドフォンを外し
「んー、王道的には終点だよな」
(聞こえてたのかよ!!)
些細な心の突っ込みは無視して会話を続ける
「この線の終点ってどこだ?」
「さぁ?シラネ。王道的には海だよな」
人のことを誘っておいてあまりにもノープランな口ぶりに普段であればイラっとするところだが、そもそもサボリなどは計画的にするものではないだろうし
“王道的に”という言葉がおかしくてつい笑ってしまう。
「ナニが、何の王道だよ?!」
噴き出しながらこ言った弘樹の顔を、逆に少しの驚きをもって見つめ返される。
どきりとしたのは弘樹の方で。
「な、なんだよ・・・」
頬が赤くなったのを覚られまいと、拗ねたようにぷいと顔をそらす。
「いや、別にー。そんな顔して笑うこともあるんだな」
そう言ったっきり質問には答えず、またヘッドフォンを戻してしまったのだった。

確かに津森と二人になるというシチュエーションは初めてだったし、教室で会っても挨拶程度。
だからといってそんなにいつも気難しげな顔をしているだろうか?
思いめぐらせて、しているかもしれない、と眉間を指で伸ばしてみる。

そうしてまた数駅通過し、心地よい電車の揺れにうつらうつらとしていた。
ある駅のホームに滑り込み、ドアが開いた時にふわり、と潮の香りが鼻先をかすめてふと目を覚ます。
と同時に隣の席から津森がいきなり立ち上がったと思うと弘樹の腕をぐいっと掴んで引き立てると
「降りるぞ」
とドアが閉まる寸前にホームへ飛び降りたのだった。
「んだよ、急に」
よく荷物を置き忘れてこなかったとホッとしつつ肩で息をする。
当然初めて降りる駅だ。
「そしてココドコ?」
乗り越すのを誘った時と同じように、いやその時以上に唐突だった。
「さぁ、シラネ」
そしてヘッドフォンを外してうーんと伸びをして
「まぁ王道的に?潮の香りしただろ。海近いんじゃね?歩いてみようぜ」
ココがどこかも分からないくせにのんきに答えたのだった。


<続く>

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