私立!妄想学園

入学式編

その日、大方の予想を裏切って壇上に上がったのは宇佐見秋彦ではなかった。

花冷えも緩んだその日。
真新しくはあるが、新鮮味のない制服に身を包んで上條弘樹は自宅の玄関前でイライラとしていた。
「まだかよー、置いていくぞ!!」
「はいはい、今行きますよー」
屋敷の奥から和服を着た母親が慌てて出てくる。
「せっかちね、ヒロちゃん」
「ヒロちゃん言うな!高校生だぞ」
「ほほほ、頭に花びらのせてエラそうに」
母の手が伸びて、弘樹の髪に積もった桜の花びらを払う。

今日は高校の入学式だ。
とはいえ、中学(というか小学校)からの持ち上がりで同級生などは高校生にしてすでに人生の半分以上友人・知人という関係が続いているまったく新鮮味のないメンツで、
しかも高校の制服はと言えば、中学からネクタイと校章の色が変わっただけ、というから
まったく"気分新た"にはならないと言うものだ。
気分も入学式と言うよりは単なる新学期と言うほうが近いのだが、それでも新しい制服や靴はやはりほんの少しの緊張をもたらす。
何より向かいに住んでいながら春休みの間顔を合わすことがなかった秋彦に、久しぶりに会えるのだ。
出合った頃は身長も大差なかったのに、中学の間に微妙にその差は開いていき卒業する頃には結構な差になってしまった。

そんな中始まった入学式。
見知った顔ぶれではやはり緊張感に欠けるのか、あくびをかみ殺しているような同級生もちらほら。

『新入生代表挨拶』

例に漏れず、弘樹もあくびをかみ殺して目に涙を浮かべていたとき、アナウンスが響いた。
(あ、秋彦だ!)
うつむいて涙をぬぐっていた弘樹がはっと顔を上げる。
「はい」
しかし返事の声は秋彦のものとは違っていて、その声は秋彦と同じように低くはあったが、
えらく軽く(はっきり言って軽薄に)聞こえ、遠目に壇上へ向かう姿を見ようと少し背伸びする。
生徒たちの間から見え隠れする髪は、薄いと言われる弘樹の髪よりも明るい色で。
階段を上りようやく全身が見え、舞台中央へと歩いていく姿は秋彦どころか、見知った顔、つまりは内部生のものですらなかった。
(な、なんかチャラっとしてる気が・・・)
新入生代表ということは、入試の成績が一番だったということ。
内部生とはいえ入試に手抜きが許されないこの学校に於いて、そして外部からの入学生を僅かしか受け入れていないということもあり、この新入生代表を外部生が行うなんてことは今まで聞いたことが無かった。
秋彦を置いて、首位。
のわりには一向に緊張している素振りの見えない態度。
(まぁ、関係ないよな)
もしクラスメイトになったならば挨拶くらいは交わすだろうが自分とはあまり関わらないタイプだと思った。
見た目で判断する訳ではないが、仲の良い友人になるタイプではない、と。


そう、確かに「仲の良い友人」にはならなかったわけだが。

「宇佐見をやめて俺にしとけ、だなんて、俺くらいしか言えねぇと思うぜ?」

そんなセリフを聞く日が来るなど、その時の弘樹は夢にも思わずにそのスピーチを聞いていたのだった。
二人が出会って言葉を交わすのは、もうしばらく先。


<終>


web拍手
  inserted by FC2 system