私立!妄想学園

Melty Kiss 編

その日の弘樹は、釈然としない気持ちでいっぱいだった。

「くっそー、何でだ・・・」
津森が横からひょいと覗き込む。
「ナニ?背ぇ伸びてなくて怒ってんの?」
弘樹の手元の紙は新学期の健康診断の結果表だった。
「ちげーよ!ボケ!歯だよ!」
ごく初期の虫歯で、要再検診。
それが弘樹が釈然としない理由だった。

「歯磨きとかちゃんとしてんのに、何でだ!俺のエナメル質は弱いのか?!」
結果の用紙を握りつぶさんばかりのイキオイでぶつぶつと言う弘樹の姿を見てクク、と喉の奥で笑う津森をジロリと睨みあげる。
「何笑ってんだよ。テメーはないのかよ」
すると同じように診断結果をペラリと見せ
「俺虫歯ねーもん。虫歯菌ないから」
といつもの自慢顔で言うのだ。
「テキトーなこと言ってんじゃねぇよ、医者のタマゴのタマゴのくせに」
虫歯菌が無いから虫歯が無いなどと言う、医者を目指すものの言葉とも思えない(そもそもいつも津森の言うことは冗談か本気か分からない)言葉をまるで信用せずにいると
「マジだってば。赤ん坊の頃は皆虫歯菌持ってねんだよ。親がさ、ちゅーしたり食い物口移しで食わしたりするじゃん?あれでうつんの。子供ん頃にソレもらわなけりゃもう虫歯にはならないんだぜ。だから俺は虫歯菌持ってねーの」
もっともらしく語られるその説明を100パーセント信じた訳ではなく、むしろどちらかと言うと懐疑的なのだが、
(“だから”虫歯菌持ってねー、ってことは・・・)
そういうことに気を使う親だったのか、あるいは。
と、ある考えに思い至って押し黙ってしまう。
しゅん、としてしまった弘樹の髪をぐりぐりと掻き回すと
「なんつー顔してんだよ。歯ぁ痛いのか?」
茶化すようにそう言って、あーんしてみな、と弘樹の顎を持ち上げるとそのまま口付けられた。
たっぷりと舌を絡められ、ひとつひとつ歯をなぞられる。柔らかく上顎を舐め上げられると、ゾクリと快感が背を駆け、体が小さく震えた。

「なんならオマエがうつしてくれてもいーぜ?」
相変わらずの余裕な態度に、うっすら涙で潤んだ瞳で睨んでも対抗出来ないのは知っているが
「こ、子供ときにしかうつらないんじゃねーのかよ」
言い返すと、そーか、と笑って再び口付けられた。

奪われるような与えられるようなキスにうっとりと蕩けだした思考でぼんやりと考える。
(ガキん頃は甘いモン食ったら虫歯になる、なんて言われたけど)
俺が虫歯になったのはコイツのせいだ、なんて馬鹿なことを考える。
甘く溶ける、キス。


<終>

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