頑張れ野分シリーズ

act.6 『99点』

中間テストが終わったと、この間の男の子が来ていた。
いつだったか実力テストが散々だったと先輩に泣き付いていた、あの子だ。
先輩が来るまでの間、少し話し相手になる。
数年前まで、長い間入院して大きな手術をしたとは思えないくらい元気で、それが俺にとってもとても励みになる。
「一番クヤシーのがさ、これ!見てよ、英語なんだけど」
差し出された答案用紙は99点。
「このさー、最後の英作文。途中のココ、ココ!『.』の付け忘れだぜ?それで1点減点!アイツはオニだ・・・!!俺史上初の満点をっ!」
微笑ましくて、思わずクスリと笑みが漏れる。
「それはすごくキチンとした先生なんだよ。よく見てくれているってことだと思うけどなー」
ヒロさんもよく論文を添削しながら赤ペンを走らせているのを知っているから、きっとこの彼の先生もヒロさんと同じように熱心できちんとした人なんだと思う。


『99点』


「よー、来たか」
そこへ先輩が戻ってきた。
「じゃーーーん、見て、これ。このジャンプアップな成果を!!」
先輩は一通り答案用紙にざっと目を通し点数を確認すると、彼の頭をがしがしと乱暴に撫でた。
「おーーー、やるじゃねーか。頑張ったな」
自慢げなその子の頭を抱きながら、先輩もとても嬉しそうだ。
1枚1枚解答用紙を確認した先輩が例の99点の答案に目を留める。
「なんだ、コレ」
先ほど俺にしたのと同じ説明をする。
すると先輩はポカリと彼の頭を小突き
「バッカお前、なにやってんだ!100点だったモンをみすみす落としてんじゃねーよ」
「えーでも、英語が一番成績イイんだぜ?」
しかめ面の先輩に、口を尖らせて彼が言い返す。
「でもじゃねーよ。こーゆーのが一番ダメなの。50点だったモンが60点になんのと、100点だったモンが99点になるのは雲泥の差で60点の勝ちだね」 
そこまで言って言葉を区切ると、しかめ面からいつものニヤリとした笑顔に戻る
「けどまぁお前のバアイは50点から99点だからな。よく頑張ったな。これで次は絶対気をつけて満点取りたくなったろ」
もちろんだ、という元気の良い返事に破顔して、再度グリグリとその子の頭を撫でてから送り出した。

事務処理をしながら先輩に話かける。
相変わらずデスクワークはとことん嫌いなようで、さっきからペンを回しながら椅子をゆらゆらさせているだけだ。
「先輩、俺は何点くらいでしょうか?」
「あん?」 
以前考えていたことを口に出してみる。
「いえ、ここまでで及第点とか、何点取ればヒロさんに並ぶとか、分かればいいなぁと思ったことがありまして」
ヒロさんに追いついてるか分からなくてグルグルしたあの時のこと。
「は?」
ナニ言ってんだ、という先輩の表情。
「あ、もちろん今はそんなこと思ってません。点数つけられるものではないですし。けど明確な数値目標は、目指しやすいというか・・・」
点数がつく仕事ではない。けれど、テストや営業成績のように数字で評価が分かればいい、そう思うことはやっぱりある。
椅子をキコキコさせながら先輩は一度髪をかきあげて

「100点じゃなきゃ0点」

さっきまでのダルそうな雰囲気から一変してそう言い切った。
「100?1は、0だぜ?99じゃねーよ」
先輩の言う言葉の真意を掴みかねていると
「満点じゃなければ他はみんな一緒だ。仕事に惜しかったね、ってのはねーのよ。1個の間違いやミスで、積み上げた来た99はパアになる。努力が評価されるのは義務教育までだ」
もちろん努力が無駄になるかどうかはソイツ次第だけど、と付け加えてコーヒーを淹れに席を立った。

頭の中で先輩の言葉を反芻する。

100ひく1は、ゼロ。

仕事は結果が全てだ。結果が出なければ、それまでの経過は気休めにしかならない。
努力は次への糧になる。無駄にはならない。けれど結果を出さなければ、やはり意味が無い。

改めて。
また改めて自分がいる場所の、向かう道の厳しさを思って気を引き締めた。

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