頑張れ野分シリーズ

act.4 『或る、本質』

「せんせぇアメちゃんちょうだいー」
入院中の男の子が、先輩の脚にまとわりつく。
「おう、リョータ。点滴おわったのかぁ?」
その子に目線にあわせるため、先輩はその場にしゃがんだ。

最近先輩は、ポケットにキャンディーを入れている。
初めは子供達にあげるのかな?と思っていたが、どうやらそうではないようだ。


『或る、本質』


「センセーのアメはすっぱいぞ?レモンだもんねー」
「えー、ボクてんてきがんばったのにー」
すると先輩はグリグリとその子の頭を撫でてやりながら
「えらい!えらいなぁリョータは。早く病気やっつけて学校にフッカツするためだモンな?頑張れるよな?」
そう言ってニコリと笑う。

(あ・・・)
普段俺なんかに(特にヒロさんに!)向ける先輩の笑顔と言うと『にやぁ』と表現するにふさわしい表情で、憎たらしいと言うかなんというか
その顔を見て余計にヒロさんは『馬鹿にしやがって!』と赤くなって怒るのだが、子供に向ける笑顔はまるで違うんだ。
外科部長から引き抜きが来るほどの先輩なのに、子供が好きだから小児科医になった、というのがよくわかるのはこんな時。

「頑張ったゴホウビは1日も早いフッカツだろ?友達にオマエの強くてカッケーとこ見せてやるんだよな?」
「ウン!せんせぇのちゅうしゃ、いたくないし!ぜんぜんだいじょうぶだぜ!」
「そうだよな、リョータはいい子だ」
そう言ってふわ、と笑ってその子の頭をもうひと撫ですると、病室へと送って行った。

 さもさんつもりん

先輩の本当の笑顔はどっちなんだろうな、なんて考えながら、医局に戻ってきた先輩に話かけた。
「子供達にあげるためだと思っていました、キャンディー」
「ん?いや、腹減ったときに血糖値アゲようと思ってさ。メシ食えねー時多いし」
パラパラとカルテをめくりつつ先輩が答える。
「注射ガマンしたご褒美とか、苦い薬飲んだ口直し用じゃなかったんですね」
草間園ではよく苦い薬を飲んだ後の口直しにしてたな、と思い出していると、先輩が

「まぁなんつーの、あんなチビに言ったって理解しちゃくれねぇだろうけど、『目的』と『ソレに付随するもの』をちゃんと区別させたいんだな。
子供だからね、我慢したらご褒美もらえる、ご褒美もらいたいから我慢するってのでも構わないんだけどさ。
本来何のためのモンなのかっつーのを分かっていないと、いつかブレる時がくる」

飴もそうそう食べさせてもダメだしな、と付け加えてカルテに視線を戻した。
そして逆に俺は考え込んでしまう。
ヒロさんと肩を並べて歩いて、社会的にも精神的にも守りたい。
小児救急に携わる一人前の医師になりたい。
俺の目標だ。

ヒロさんと肩を並べる為に医者になる?違う、手段じゃない。
一人前の医者になれたら、ヒロさんと肩を並べられる?それも違うだろう。
ヒロさんと並んで歩けるようになる為、というのは医者の道を選んだ理由の一部ではあった。けど、全部ではない。それに医学部に入ってこの道の勉強を始めて、何かの手段にするほど生半可な道ではないということも身にしみて知った。
(頭で理解しているのと、身をもって知るのとでは大きく違うということも分かった)
そして一人前の医者になれば、自動的にヒロさんと肩を並べられるわけでもない。それはご褒美のように付随するものではないんだ。

ヒロさんと肩を並べられたと思っても、医者としての精進をやめる訳ではない。
一人前と認められたとしても、ヒロさんはもっと先を歩いているかもしれない。
これら二つはどちらがどう、というわけではなく、並立する二つの目標なんだ。
ここがブレてはいけない。
見誤ってはいけない。

改めて気を引き締めていると、先輩がのんきに話しかけてきた。
「お。このアメ、上條サンに似てねぇ?」
差し出したのはまん丸い紅茶味のキャンディー。
「・・・・ドコがですか・・・・念のため聞きますが」
「だって、アノ人の目ってこんなだよな?」
あーん、と口をあけて食べようとしていたので、思わず先輩の手からアメをひったくる。
「コレは俺がいただきます」
ヒロさんに似てるといいながら食べようというのだから、先輩は意地が悪い。
「先輩、煙草やめるためのキャンディーじゃないんですか?」
奪ったアメを口に放り込んで半分イヤミのつもりで言うと、
「やめねぇよ?だってー、パンダの携帯灰皿ももらったしー?」

そう言って、にやぁ、と笑ったのだった。

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