頑張れ野分シリーズ

act.3 『努力の領域』

中学生くらいの男の子と女の子がナースステーションに来ていた。
聞けば男の子の方が2年前まで入院していたらしく、その時の担当だった先輩を待っているそうだ。


『努力の領域』


戻ってきた先輩の姿を見るなり、その男の子は
「センセー、助けて〜!今日の実力テストヤバいと思う…」
先輩の白衣に縋って泣くフリをする。
「勉強したのかぁ?」
「いやー、バッチリしたつもりだったんだよ〜今回は今までより頑張ったはずなんだけどさ!」
二人の会話を微笑ましい思いで聞いていると、先輩はフム、と顎に手をやり俺をチラリと見てからその子に向かって
「おー、だったら大丈夫だろ。勉強っつーのはな、やったらやった分だけちゃあんと点数になって帰ってくるもんだ。
まぁ、”つもり”と”はず”の部分は点にはなんねぇけどな。」
「えーじゃあ今日の俺は勉強したようでしてないってこと?」
「まぁ結果通りじゃね?点数分の勉強はしたんだろ」

なるほど、と思う。

「えーなんかコツ教えてくれよ〜。センセー学生時代勉強なんてしたのか?チョーしてなさそうじゃん」
先輩は、はは、と声を上げて笑ってからその子の頭をポカリとやる。
「バッカお前。まぐれで医者になれるかっつーの。
言っとくけどな〜、津森センセーは勉強チョー得意!むしろダイスキだね〜」

おどけた様子でそこまで言って、今度は真剣に向き合う。
「考えてもみろ、勉強っつーもんは自分の頑張りだけでなんとかなるだろうが。
世の中にはなぁ、自分がどうやったってままらねぇもんで溢れてんだよ。
人の気持ちもそう、オマエの病気だってそうだったろ?
だったら自分でなんとか出来る分はやっとけよ。くさってないで頑張っとけ。
そうやってたらだな、いざとゆーときになんかが味方してくれんだよ。
オマエの頑張りだけじゃ何ともならねぇハズの彼女の気持ちも何とかなるかもしれないぜ?」

juken 【イラスト:味噌さま】

最後は初々しい二人の関係を茶化すようなことを言ったので、男の子の方は真っ赤になり、女の子は俯いてしまった。
「…んだよ〜、まぁ恩人のセンセーが言うことだ、真に受けて勉強頑張ってみてやる」
「なんだ、その上から目線!素直じゃねーなぁ!」
そうやってひとしきり笑いあってその子達は帰って行った。

彼らを見送る先輩の背中に
「ハイ、頑張ります」
と俺も誓う。

最も儘ならないものだったはずの、ヒロさんの気持ち。
もちろんすごく頑張った、なんとしてでも手に入れたかったもの。
今でも自信をなくしそうなる時もあるけれど。
だから俺もまだまだ頑張らないといけない。

なんとかなることも、儘ならないことも。
振り返った先輩は一瞬だけ驚いたように目を見開いて、いつものようにニヤリと笑った。


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