頑張れ野分シリーズ

act.2 『支え』

もう何日家に帰っていないか、を数えるのを諦めてから数日後、
ようやく帰れるということになり、挨拶しながら医局を通り抜けていると、まだまだ帰れなさそうな先輩に声をかけられた。


『支え』


    「おー、野分。帰ったら”補給”する前に昨日の症例復習しとけ、んで今日のアレは補給後でいーから」
足取りもフラフラな俺への『課題』に、その場に居合わせた別の先生から冗談めかして『津森、オニだな〜』と声があがる。
先輩は苦笑している俺に、帰れ帰れと追い払うような手振りをし、その先生に向き直る。
「人聞き悪いなぁ〜。人に裏切られることがあろうともー、神に見放されることがあろうともー
努力に裏切られることはないっすからねー。どう、この俺のアリガタイ親心!!」
背中越しに先輩の声を聞きながら、面と向かってのアドバイスではないけれど
有り難く心に留めておく。

病院を出たところで受験生と思わしき集団とすれ違う。
模試の結果を見せ合っているようだった。
そんな季節か。
先ほどの先輩の言葉で、ヒロさんに勉強を見てもらっている頃を思い出した。
こと勉強に関しては、宣言どおりスパルタだったなぁ。

ちょうど本番の受験日を1ヶ月後に控えた頃だったろうか。
バイトを休まない俺の体調を気遣いつつも、それでも、もうちょっとでも今までより多く勉強しろとヒロさんは言った。
『いいか、野分』
まっすぐに俺の目を見て。
『お前は十分過ぎるほど頑張ってる。それは誰より俺が知ってるし、保証する。
けど、どんなに準備万端で臨んだって、やっぱり本番近くなったら不安にもなるし緊張だってする。
そんな時に支えになるのはさ。俺や、周りの言葉じゃねーんだよ。
“あれだけ勉強したから大丈夫だ”っつーさ、今の頑張りなんだ。
今の、オマエ自身の頑張りが、唯一オマエの自信になる。』
その時は、ヒロさんが太鼓判を押してくれるだけで俺は自信満々で臨めるのにな、なんて思ったりしたけど。

今ならわかる。
ヒロさんと、先輩は同じコトを言っている。
過去の自分が、今を支える。
そして今の自分は、未来の俺を築くんだ。
そうやって道は続いていく。

家に着いたら、まずご飯の仕度をして
ヒロさんが帰ってくるまでにノートをまとめよう。
俯きがちだった顔を上げ、マンションまでの残りわずかな道のりを早足で歩いた。


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