頑張れ野分シリーズ

act.1 『責任』

ミスではないのだし、俺が気に病むことではない。
そうは言われたけれど、気になっていることがある。


『責任』   


              「野分、どうした」
休憩室でぼぅっと考えていると、喫煙室に行く途中の先輩に声をかけられる。
「あ、先輩。イエ、なんでもないです」
ニコ、といつもの調子で答えることに成功したはずなのに
「・・・昨日の子か」
あぁ、やっぱりごまかしが効かない。

感情を表に出さない、悟られないように、自然とそう育ってきた。
そんな俺の感情の変化を敏く気付くのは、園長先生、ヒロさん、そして
この、津森先輩。

先輩のすごい所は、例えば努力していたりする所を周りに悟らせない所だ。
サラリと、さりげなくこなしてしまう。
それは、相手に対する負担の軽減になるんだと思う。
いつもふざけている風で、実際ふざけていることもあるのだけど
(特に対ヒロさん!)
それは照れ隠しだったり、思いやりだったりするのじゃないかと思っている。
に、対して。
『よく頑張っているね』といわれる俺は、まだまだなんだと思う。
そりゃぁ研修医の分際で、先輩の指導医とイキナリ渡りあおうだなんて
分不相応なことをいっているわけではない。
今の俺にはとにかく頑張ることしか出来ないし。
人の頑張っている姿に励まされる人もいるだろう、けれどソレは心身ともに健康な状態にあればこそで
キモチが折れている時に目の当たりにする『頑張る姿』というのは、ある種やはり負担になるんだと思う。
『先生も頑張るから一緒に頑張ろう』
この言葉が、プレッシャーになることが、大いにあるということだ。
『もう頑張れない』
ある種あきらめている子供たちに、諦めずに頑張ろうという言葉は一層空々しく届かない。
『先生一生懸命してくれたのに、私頑張れなくてごめんなさい』
こんな言葉を、言わせてはいけないのだ。

俯いて返事を返せずにいると、いつもの調子で先輩が言う。
「さて、ここで野分クンを励ます言葉が二つあります」
口の端をあげて、ニヤと笑って、
「まず一つ目。あの子のケースはココの範疇じゃねぇよ。向こうに任せるのがベターだ。
それまでオマエは十分なことをしたよ」
別の先生からもそうやって励まされた。
ミスをしたわけじゃない、オマエの責任じゃない、十分よくやった、きっとそれはそうなんだと思う。
だけど一向に気持ちは軽くならない。

そしてこの一つ目は、きっと先輩の本心ではない。
「ベターですか・・・ベストがあったのでしょうか」
そう、常にそれを考えている。
すると先輩は片眉をあげ、そして真剣な表情になり
「ベストが何かはわからねぇよ。
けど、そうだな、二つ目は…
“その行為に、自分に責任があるのか、ないのか”その疑問が心に浮かんだんだったら、それはオマエに責任があるっつーこった。
仕事ってのはさ、その責任から始まんだよ。
何とも思わねぇヤツは、その疑問もねぇからな。そして成長もないさー。
もっと出来ることがあったんじゃないかと気にしろよ、それは悪いことじゃない。一人で抱え込む必要はないけどな」
一つ目の慰めで励まされてるヤツより8倍はマシだ、せいぜい足掻け、そう言って先輩は喫煙室へと入っていった。

つまり、先輩はそうしてきたということだ。
そして、少しは認められた気がした。
「お前の責任じゃない」という慰めより
「お前の責任だ」という励まし。
先輩の後姿に頭を下げて、気合を入れなおして休憩室から出た。

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