close to you

act.5

「んん〜」
自分の声で目が覚める。
うっすら目を開けるが、薄闇の中ではここがどこなのかスグには判断がつかなかった。
(月明り・・・?まだ夜か?)
どうやって帰ったのか、ぼんやりと頭をめぐらし、目を凝らす。

「!?」

天井。
自分の部屋の天井ではない、ということに気付いた。

どきん、と心臓が鳴る。

ごしごし、と目を擦ってさらに周りの様子を見る。

(な・・・なんだ、野分の部屋か・・・)
ほっと一息ついたのも束の間で、今度は自分の腕が掴んでいるものを確認してまたギクリとした。

足下の床に座って、ベッドの端に突っ伏すようにして寝ている人影。
その人影に、心当たりは・・・ある。
その腕を、俺が、こともあろうにこの俺がしっかりと掴んでいて。

「っ!!」
慌てて手を離し、起き上がる。

俺が動いたせいで目が覚めたのか、ぴくり、とその体が反応し、ゆっくり顔を上げた。
「・・・ぁ〜、目ぇ覚めました?」
コキと首を鳴らしながらのそりと体を起こす。
「っテテ」
ずっと同じ体勢でいたために痺れたのか、津森は眉を顰めた。
「ぁ、えと、その・・・すまん」
手首をくるくると回している津森にごにょごにょと声を掛けるが、つい俯いてしまう。
うっすらながら、昨日の記憶がよみがえってきた。
たかだか2杯で酔っぱらって、あのふかふかと居心地のいい店で意識がふわりと途切れている。
それが今とりあえず無事にここにいると言うことは、病院に戻ったコイツがバーテンとの約束通りまた帰ってきて、それで俺を連れて帰ってくれたって事だろう。しかも金を払った覚えもねぇ。
仕事あけで、疲労困憊しているだろうに。
情けなくてカスピ海へ行きそうになる。
(しかも腕掴んで帰さねぇって・・・!)
津森と認識してたら、もちろんそんなことはしない、きっと野分と勘違いして!って、マテ!
俺は無意識に野分のことを引き止めることがあるってことか?!
つか津森と野分を間違うってなんでだよ!!

・・・だって、アイツがするみたいに髪を撫でられた・・・気がするから。
ということは、それ、津森がやったって事か?
それとも酔っぱらって気のせいだとか?
そうだ、酔ってるせいだ!
ぐるぐる考えはするが、顔を上げられない。
どんな顔すればいいんだ?

「ナニ一人で百面相やってんスか?」
くく、と笑う声がするので、むっとして顔を上げると
「え、帰る・・・のか?」
カバンを肩に提げて、まさにドアノブに手をかけて出て行こうとしていたので、慌ててベッドボードの時計を探す。

2時。

何時に家に帰ってきて、何時間寝ていたのかは分からない。
けれど少なくともこの時間から(こいつの家がどこかは知らないが)帰る手段は徒歩しかない。住宅街にタクシーも通らなければ、終電の終わった駅に待っている訳はない。ましてや車で来ている訳でもないのだ。

帰るのか、と言ったはいいモノの。
じゃぁ泊めてやれるのかというと、そこははっきり言って判断に迷う。
俺のせいである以上は、ここは泊まって頂くべきで、けどここは野分の家で。
またしてもぐるぐる考えていると

「泊めてくれるんですかー?」
津森の方から声がかかる。
一緒に寝ます?と悪戯っぽく笑われてしまうと、
「あ、アホか・・・っ!」
思わず手元にあった枕を投げて。
そう、追い出すようになってしまうじゃないか。
というかそうなるように仕向けているんだよな、コイツが。

かちゃり、扉を開けて。
「自分のコトは信用してんですけどね」
部屋を出て行きながら
「ま、念のため、ってヤツです」
ぱちんとウィンクを飛ばして、俺をさらに赤面させてから、ぱたんとドアを閉じて行ってしまったのだった。

最後に、後もうチョットだけ、水飲んどいて下さいね、と残して。


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