close to you

act.4

「よ・・・っこらせ」
ようやくの思いでカバンの中から鍵を探り出す。
がちゃりとドアを開けながら、再度ぐったりとした彼の体を抱え直した。
「あー、ほら、靴脱いで下さいよ。土足じゃねーっての」
どうしてあれだけの酒でこんなになるんだか。
一般的にはアルコール度数の高い酒ではあったけどさ。
病院で夜勤中の後輩の話がちらりと頭をかすめる。恋人が飲み会だって度に心配してたよな。
あのガードの「固そうな」(そして実は隙だらけな)人が、酒でそのガードさえもなくしたらそりゃぁ大変だろうネ、なんてヒトゴトだと思っていたが、
今まさに我が身に降り掛かっているオレ。
いくら華奢だとはいえ、酔っぱらってる成人男性を運ぶのは、子供を運ぶのとはワケが違う。
どさり、とその体をベッドに横たえ、そばに腰掛ける。ベッドが恋しいのは本当は俺の方ですよ?
「う・・・んー」
むずがるように手を襟元にやる。
「ハイハイ、ネクタイですネ」
しゅる、とネクタイを引き抜くと、ホッとしたようにへらりと笑った。

そろそろ連続攻撃に耐えられなくなりそうだったので、冷えた水でも飲もうと立ち上がる。部屋を出てキッチンへ行こうとしたのだが、いつの間に服の裾を掴んでいたのか、引き止められる。
「・・・ったく」

きゅ、と俺の服を掴む指を、1本1本ゆっくりと開かせる。
酒のせいか、ピンクに染まった指先。
普段はきっとひんやりと冷たいのだろうその指先はトクトクと脈動を伝える。
するりと指の腹をなぞるとぴくんと震えた。
滑らかな指先。
その華奢な指を味わうようにして全て外したところで(名残惜しい気持ちがあるのは否めないが)その腕をベッドに戻してやろうとしたのに。

「ゃ・・・だ」

今度は手首を掴まれた。
酔っぱらいの馬鹿力とまでは言わないが、思ったより強い力で掴まれて驚く。
「分かりましたヨ。誰かさんの代わり、ですかねー」
諦めてその場にとどまる。
月明かりに透けるような肌は、指先と同じようにほんのりと赤みを帯びている。
額にかかる髪を梳くように撫でる。
指先から零れて行く髪の隙間から立ち上るのは夜の匂い。
あの店の香ばしい薪の匂い、俺の煙草の匂い。

撫でられることで、あるいは腕を掴んでいることで安心したのか、寝息が規則正しくなる。
もともと童顔な彼だが、薄く唇を開いて無防備に眠る姿はいっそうあどけない。
酒を飲んで、水分取らずに寝てしまったら二日酔いになる。

「・・・仕方ないなぁ」

手を伸ばしてカバンの中を探る。
ミネラルウォーターのペットボトルがあったはずだ。
片手でキャップを外し、ひとくち口に含む。

(こーゆうの、不可抗力、っていうよな?)


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